大阪地方裁判所 昭和43年(手ワ)955号 判決 1968年8月31日
原告 河合貞雄
右訴訟代理人弁護士 西田順治
被告 奥村真一
右訴訟代理人弁護士 武藤達雄
同 田中寿秋
主文
被告は原告に対し金二五〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四三年四月三日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮りに執行することができる。
事実
<前略>
(被告の主張)
本件各手形は、被告が訴外那須醇から、守口市八雲西町四丁目九番地、宅地一二・二〇坪、右地上木造瓦葺二階建居宅建坪一階九・九五坪、二階八・〇〇坪を買受けた残代金の支払のために、同訴外人に対し振出し交付したものである。
被告は右振出の当時、同訴外人が破産者であることを知らなかったものであるが、同訴外人は昭和四二年四月五日破産宣告を受けており、本件手形金債権は、破産財団に属するものである。従って管理処分権のない同訴外人が同年五月二七日になした本件各手形の原告に対する裏書は無効である。
以上のごとく、被告は、破産法第五七条により本件各手形金の支払義務を負わない。
(原告の被告の主張に対する答弁)
被告主張の日に、訴外那須醇に対し、破産宣告のなされたことは認めるが、被告が本件各手形振出の当時、同訴外人が破産者であることを知らなかったとの点は否認する。其余は不知。
理由
一、請求原因事実、符号①及び②のうち振出の事実はいずれも当事者間に争がなく、原告主張の約束手形(以下本件手形という)(1)の受取人が入江三郎であることは甲第一号証の記載から窺知することができる。
二、被告は、本件手形(2)乃至(5)につき訴外那須醇のなした各裏書は、同訴外人が破産宣告を受けた後になしたものであって、本件手形金債権は破産財団に所属するから無効である、と主張する。
訴外那須醇が昭和四二年四月五日に破産宣告を受けたことは当事者間に争がなく、又、本件各手形の振出及び裏書が右宣告の後になされたことは、甲号各証の記載から推認することができる。
しかしながら、被告が右各裏書の無効の根拠として引用する破産法第五七条は、為替手形につき、その引受或は支払が振出人又は裏書人の破産宣告の後になされた場合、これによって引受人或は支払人が取得することのある振出人又は裏書人に対する求償権の如き債権を、当該引受人或は支払人が破産宣告の事実につき善意であるときに限り、本来は破産債権でないのにもかゝわらず善意者保護と手形取引の円滑をはかる意味で、特に破産債権として取扱う趣旨を規定したものにすぎず、本件の如き場合に、振出の事実関係が被告主張のとおりであったとしても手形金債権自体を直ちに破産財団に帰属させる趣旨ではないと解されるから同条の適用はないというべきである。又、他に本件手形金債権が当然破産財団に帰属するものと解すべき根拠はない。
従って本件手形金債権が破産財団に属することを前提とし本件(2)乃至(5)手形の各裏書を無効とする被告の主張は結局理由がないことに帰着する。
三、そうすると原告の被告に対する本訴請求は正当であるからこれを認容する。<以下省略>。
(裁判官 工藤雅史)